偶然の一致は必然的?

 心をタイプごとにわけて説明しようとしたユングですが、彼が提唱したオカルティックな説は退行的前進的の概念だけではありません。今回の記事ではユングが提唱したシンクロニシティを紹介したいと思います。

偶然の一致?

 ユングは精神科医であり、あるとき患者から昔の夢の話を聞きました。その夢は知らない人からコガネムシをプレゼントされるというものなのですが、その話をしているとき部屋の窓に偶然コガネムシがぶつかってきたのです。夢のコガネムシとぶつかってきたコガネムシの因果関係を説明するのは難しいですが、人間は何かしらの関係を見出そうとします。これがシンクロニシティです。

因果ってあるの?

 因果とは、「PならばQ」という文が成り立つときのPQです。例えば「空中でボールを離せばボールは落ちる」という文があったとします。「ボールを離す」と「ボールが落ちる」には因果関係があるように見えます。しかし、可能世界論の記事で紹介したように、「PならばQ」を成立させるにはPが起こるとき全てにおいてQも起こることを確認しないといけません。本当は上に浮かぶこともその場で静止することもありうるのに、たまたま今まで全ての物体が下に落ちているだけかもしれません。物理の法則も実験による経験則なので、これから法則が変わってしまうことも考えられます。ただし、たまたま今まで物理法則が機能し続けた確率もとてつもなく小さいことは確かです。

 逆に因果関係がなくとも、これまで経験的に正しいことが分かっていればそれを法則として使うことがあります。例えばテレビを見ていないときに限って応援しているスポーツ選手が勝つ、などのジンクスと呼ばれているものがそうです。シンクロニシティ法則の境界は曖昧なのです。

あれもこれも法則!

 現在のオカルトでは宇宙と人間の精神がシンクロニシティによって繋がるという考え方をよくされますが、これに似た考えは一世紀ごろからすでにありました。

 伝説の魔術師であるヘルメス・トリスメギストスは錬金術を始めた人として知られています。ヘルメスによると、上のものは下のものに似ているという法則があるそうです。これは実際の宇宙であるマクロコスモスに対して、地上で起こる現象ミクロコスモスが似たように動くということです。この時代にはすでにエジプトやアラブの人々の研究により星の動きを予想できるようになっていました。なので星の動き人間の運命を関連付けた占星術や、星の動き物質の化学変化を関連付けた錬金術が広がりました。これもシンクロニシティでしょう。それ以降も直観的な関連付けは続き、ユダヤ教神秘学の「生命の樹」、カード占いに使われる「タロット」、ギリシャ哲学から現れた「四元素」などが関連付けられていきます。

 現在の自然科学では「原子説」、「物質の化学変化」、「ニュートン力学」、「星の動き」を関連付けています。それまでの上のものは下のものに似ているという考え方から経験則(再現性)という考え方に変わっているだけで、正しそうなことを関連付けていることには変わりありません。

「法則」の代わりに「世界」!

 法則だと思われるものはたくさんありますが、それが100%確実な法則、因果関係であることを証明することはできません。1万回やって法則が成り立っていても、次にやって成り立つとは限らないのです。それは現代自然科学でも錬金術でも占星術でも同じです。

 そこで登場するのが以前も紹介した可能世界論です。「これまでたまたまデタラメの法則が成り立ち続けた」というのはかなり低い確率のように思えますが、可能世界を考えると「今まで一定の法則が成り立ち続けた世界がひとつ存在する」ということになります。「今まで一定の法則が成り立ち続けた世界」は想像しうるので、この可能世界は確実に存在すると言えます。その法則は物理法則に限りません。「ヘルメス・トリスメギストスが錬金術をしたときは毎回錬金術の法則が成り立つ」という世界は想像しうるので可能世界として存在します。世界が1つあってそこに法則を見出そうとするのではなく、ある法則に見合った世界が存在するかどうかで考えるのです。

 こう考えると、全ての現象は因果ではなく偶然に起こったことということになります。因果関係のないことに因果関係を見出すのがシンクロニシティなので、可能世界論的には全ての法則がシンクロニシティなのです。

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